テレビ大走査線
- 作者: 君塚良一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/07
- メディア: 単行本
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以前紹介した裏ドラマは半ばフィクション風味だったけど、この本は一作ごとにより詳しく、生々しく書かれており、脚本家の仕事や現場の裏話が読んでみたい人にはとても面白いと思う。プロデューサーや役者の意見をとりいれ、ロケや予算の都合で何度も書き直し、それでいて自分の色と確実な面白さを求められるのだからプロの脚本家は大変だよなあ。
「踊る大走査線」が、人気が出なかったらラブロマンスになっていたとか、「ずっとあなたが好きだった」はもっと悲恋ものとして考えられていたとかという裏話だけでも十分面白いけど、この本が魅力的なのは君塚氏自身が自作について自問自答し、視聴者のための「商品」と自分の「作品」との間で苦悩する様子が赤裸々に描かれているところだろう。
ヒットするノウハウを知っているからこその苦悩は、ヒット作を作れない人間から観ればうらやましい悩みかもしれないが。
それにしてもドラマのノウハウの部分は核心をついていて、いち視聴者からしてみるとなるほど!という点ばかりなのでちょっと長いけど引用。
たとえば──。
登場人物に感情移入させる。
観ている人がまるで自分のことのように登場人物を思って、気持ちを重ねる。まるで自分がそのドラマの世界で生きているかのように。そうすると、観客は、登場人物と共に悩み、悲しみ、喜ぶことができる。
物語の舞台の世界に共感させる。
そのドラマを観ていると、心地よくなる。観ている人にとっての理想だったり、観ている人よりも少し不幸な場合は同情という優越感にひたれる。嘘だと判っていても、自分もこの世界にずっといたいと思う。
判りやすく作る。
テレビは、ながらで観ているという前提で、画面に目がいっていなくとも、伝わるように作る。耳だけ向けていても、物語が判るようにする。つまり、セリフの重視。セリフだけて今何が起きていて、前に何があったのかを伝える。そして、毎週観ていなくても乗り遅れないよう、ていねいにセリフで今何が起きていて、前に何があったのかを伝える。理解できないものはつまらないと言われるから、誰でも納得するテーマを扱う。
感動させる。
今、人は泣きたがっている。泣いている自分を確認したいのだ。涙をこぼせる自分はまだいい人なのだと確認したい。それほど、今、人は自分自身を疑っている。それに、本当の自分の周りには感動など存在しないと諦めている。
これらのノウハウは正しい。まったく正しい。問題なのは、それが当然のことであると議論もされなくなっていることである。ノウハウが完成して硬直してしまったのだ。けれど、視聴者がそれでいいと言っているのだからいいじゃないか。それもそのとおり。出来上がったノウハウ以外でドラマを作る理由はない。他によりよりノウハウりどないのだから。わたしたち作り手も硬直してしまった。
閉じるとはそういうことである。
(略)
わたしたち作り手は知っている。観客は、自分たちの要求に応えてくれる作品を支持するが、いったんそれに飽きると、残酷に切り捨てる。つまらないというたったひとつの言葉で。今は面白いと言われているからいいが、明日は判らない。なのに、うまく関係が結べている日々の中では、明日のことを考えたくないものだ。いつか背を向けられる事を知っているのに。
これを読むといちいちなるほどと納得してしまう。
考えないでフツーにドラマを楽しむのもいいけど、こういうのを考えながら観てもまた違った楽しみが見つかるんでないかな。
と同時に自分が好きなドラマの何が好きだったのか判ってくる。けどこういうのは必要ない人にはほんとに必要ないんだよなあ。理屈で作品を楽しむのは邪道なのかもしれんけど、面白いと思っちゃうんだからしょうがない。