そして殺人者は野に放たれる 日垣隆

ISBN:4104648019

日垣隆の本を続けて読んではいけない。世の中の不条理に腹が立って眠れなくなるからだ。

現在の刑法の異常性を豊富な判例をもとにこれでもかこれでもかと提示するやり方は、筆者が弟を殺され、兄は精神分裂症という特殊な環境と経験から来る怨念すら感じる。

死ぬとは思わなかったといういいわけで8人の少年にリンチされて殺された少年。しかし家族は加害者の事すら知らされず加害者はたとえ殺人であっても万引きとおなじ扱いで裁かれるという異常性。
大人になったとしても今度は飲酒や薬物使用をしている状態の犯罪というだけで刑が大幅に減刑される刑法39条の問題。
たしかに時々報道で伝えられてくる問題だ。
日常の報道で穴埋めとして書き飛ばされる事件の一つ一つにそういう非道が隠されていると思うとやりきれない気持ちになる。

果たして自分の家族が殺されたとして加害者に責任能力がないというだけで許せるものだろうか?
いやこんな初歩的な問題提示は本書の肝心な部分ではなく。恐ろしいのは裁く側の法曹界の異常性だ。最近になってやっと問題がクローズアップされてきたのにいつのまにか刑法改正論はどこかに行ってしまっている。


正確には1995年の国会で改正案が出たが与野党・法務完了・日弁連によって半永久的に棚上げされたという。
そしてこれはマスコミがまったく伝えていない!

この議題だけでなく実際の事件でも加害者が精神障害というだけですっかり及び腰になるマスコミの異常さもさることながら、自分達の権益だけで改正を阻止するという人々がわれわれの社会を動かしているという不条理。

こんな絶望的な事実を当事者である人間が書くことにどれだけのエネルギーがいるか、それを慮るだけでも気分が悪くなる。そしてその勇気に敬意を払わざるを得ない。

日本に陪審制度がなじまないとする人間がいたらその人間の言うことをまず疑うべきだろう。法曹会、そして人権派の感覚がどれだけ一般人とかけ離れているか、そのメッキがはがれる日が早く来てほしいと思う。


果たしてそれがいつになることか…。そして自分の家族がいつかそういう犯罪に巻き込まれる可能性を考えると。
やっぱり続けて読むのはおすすめできない。