大日本人

もう公開から一月も経つんだしネタバレありで。


この映画は松本仁志の巨大ヒーローコントをひたすらリアルに、ドキュメンタリータッチで描き、終盤15分でそのことを明かす、という構成になっており、そのこと自体がネタバレ厳禁(シックスセンスみたいな)になっている。そのぶん宣伝がなかったというマイナスのほうが大きかったのではないか?
カンヌでウケなかったのも当然だ。これは、日本の巨大ヒーローものを知っていることが前提になっている映画なのだから。


リアルな巨大化ヒーローが現実にいたら?社会的に認知されていたら?というシミュレーションとして、ディティールの積み重ねが意外なほどによく出来ている。ヒーローのいる世界観づくりでいえばすごくハイレベルなのだ。久しぶりに怪獣ものを観たという感じがするし、和風ヒーローとして響鬼旧儲が騒ぐのもわかる気がする。


しかし実を言えばこの映画の「リアル」の描写はリアルでもなんでもない。怪獣に被害にあった人々の言葉が意図的に、完全にスポイルされているからだ。怪獣が突然出現するならば、その怪獣に家を壊され、家族が殺された人は確実にいるはずなのだが、この映画ではそのへんは全く出てこないまま、主人公がもたらす被害だけを切り取ってギャグとして観せている。(そこがこの映画全てがコントである、という隠された伏線でもあるのだが)また、自衛隊が出れば……というセリフはあるものの、実際には全く出てこず、ひたすら巨大ヒーローは、「どうでもいい」やつとして描かれている。
とはいえ特撮パートはよく出来ているし(さすがに劇場レベル!と思うくらいに。テレビ特撮ばかり観ていると……)、前述したリアリティの積み重ねなんかは大人のオタク向けとして、小技が効きまくってて楽しい。
リアル、は所詮現実を如何に切り取って見せるかにすぎない。つまりそれは、本編で使われているドキュメンタリーの手法そのものであり、そこを知っているかどうかで作品の評価は変わってくるはずなのだ。
特にネタバレパートで出てくるヒーローの「ジャスティス」は単に実写パートのキャラクターではなく、本編でも少しだけ語られている、「他のヒーロー」と等価であり、現実を如何なる視点で切り取るか?を見せるキャラクターなのであることに気がつくかどうか。松本監督が「客のレベルが低い」とこぼしてしまったのも、わからないではない。


……と書いてきたけど、だからといって面白いか?と言われると、「別に……」になってしまうところがこの映画の悲しいところ。実際「お笑い」の松本が初監督、という先入観が観客として拭いがたいところが不幸ではある。作り手の観せたいところと観客の求めるものの齟齬が埋められていないと感じた。観客が、海原はるか竹内力の顔のくっついたCG怪獣(これもコントである、という伏線ではあるのだが)を観てウケたところで、それがリアルな怪獣映画である意味は別にないのだから。


仮にこれが無名の新人監督で、怪獣が普通の(役者の顔がついてない)ものであれば、この映画は先入観なく、そこそこ評価されていたに違いない。奥さんと子供にも逃げられて、それでも一人戦うヒーローの悲哀のところだけを特化して観せていれば、カルト作品として特撮ファンにもてはやされていたに違いないのだ。ただこの作品はダウンタウンの松本仁志でなければ(資金的にも)作れなかったであろうところに不幸があるのだが。


特撮オタクは観ておいて損はないと思うし、久しく観られなかった怪獣映画の描写が堪能できることは間違いないと思う。ドキュメンタリーパートの役者陣の演技もナチュラルで巧いし、ちょこちょこ挿入されるギャグのセンスは素直に褒めていい。この路線で三谷幸喜がきちんとオチのある話に作っていれば、大ウケしていたに間違いないのだ。
演出、演技、シナリオ……全てがきちんとその役割を完うしているし、映画としての完成度はちゃんとクリアしている。そのことを気づかずに、カメラやシナリオをシロウトの観客に罵倒されたら、それは怒るだろうなあと思う。これが第一回監督作品ならもう手放しで褒めてよいレベル。
つまりはどっちつかずを良しとしてしまった企画自体が(それにGOサインを出したプロデューサー含めて)ダメ、と個人的には思うのだが、それは監督だけのせいなのだろうか?