仮面ライダーカブト 総括

カブトでダメだったのは実はストーリーではなく、キャラクターだったと思うのだ。
結局は視聴者がそのキャラクターを好きになるかどうかだし、作品の評価といってもストーリーの辻褄なんてわりとどうでも良かったりするのは世の中の人気作品を見れば一目瞭然。


カブトのキャラクターはすごく立ってたじゃあないか、と言われるかもしれないけど、そのキャラクターの個性がドラマに絡まないところ、キャラクターがまるでストーリーを引っ張っていかないところがマズいのだ。キャラが自分で動いているのではないので共感のしようもなければ、コイツは何がやりたいの?と行動理由が最後まで判らないキャラクターばかりというのが観てて辛かった。そもそもキャラクター同士がぶつかり合い、絡み合うところがドラマのミソだというのに、年間を通してそれが弱かったと思う。
結局悪いのはストーリーではなく、キャラクターなのだ。


1クール目は面白かった、という人は多いけど、シナリオ云々よりも各キャラクターの役割がはっきりしていたから面白かったのだ、と言える。不可能を可能にするデウス・エクス・マキナの天道、それを追う成長株かつ視聴者視点の加賀美*1、「組織」の代表としてカブトのライバルの矢車、「秘密」を引き受ける加賀美パパと三島。


しかし後半はその全ての役割があやふやになり、筋を追うためだけの理由でキャラクターが動いているためにシナリオにも魅力がなくなってしまった。各キャラクターの個性・思惑・欲望がぶつかり合って、そこにドラマとしての魅力が生まれるのに、各々のキャラクターが何をやりたいのか?何を目的に生きているのか?が見えない以上、どんなに謎やミスリードをぶち込もうとも話が盛り上がりようもない。


いくら地獄兄弟が個性的であっても、天道になんの因縁もない以上最後まで要らないキャラになったのもむべなるかな(完全カットでもダイジョーブ!)。加賀美がガタックになったとたんにダメになったのも、一応天道に「追いついてしまった」あとの行動を何も考えていなかったせい。剣がギャグキャラ化したのはワームを倒すことに執着しなくなったせい。
そしてたとえ天道がひよりのために暴走しても、みんながそれをスルーしたのではドラマになりようもない。ちゃんとかみ合ってこそ話が盛り上がるのだ。
敵役のワームについても行動基準については最後まで何も語られなかったせいで天道と対立するドラマもなければ、ザコばかりしか出てこないのにパワーアップばかりではいくらワームを倒しても強そうには見えない。カブトじゃなくちゃ倒せない相手を倒すからこそ最強ライダーなのだ。せめて幹部クラスが3〜4人出ていれば……。


要するにシナリオの中で、そのキャラクターでなければならない必然性がどんどん希薄になっていったところがマズいのだ。逆に言えば、キャラクターさえしっかりしていればどんなシナリオであろうとキャラクターたちが自分で動いて解決してくれていたのではないか。キャラクターの行動と、ストーリーとがきちんと絡み合ってこそドラマと言えるのだ。


閑話休題
もともとの「月刊ライダー」の構想*2で考えてみると、登場するライダーたちは天道に対立・対比する要素を持って作られていたように思う。
・矢車 → 協調・組織
・影山 → 従順
・風間 → 自由
・神代 → 悪の俺様キャラ
どのキャラもちゃんと描写しさえすれば、みんな天道に絡んで活躍出来た*3はずだし、井上キャラだから合わなかった、という批判も意味がない。天道は最強だから誰も勝てない・並び立たないという描写はヘタ過ぎたと思う。他の奴もスゴいけど、天道は最後に頼りになる奴、で十分だと思うのだが。
加賀美は天道とライバルとの戦いを見て成長する視聴者視点のキャラクターであり、悩みながら迷いながらも成長し、天道とはまた違う自分の道を歩むようになるという役割。専用武器・専用バイクがあってもハイパーになれないんじゃナイト並の活躍は初めから想定されてなかったんじゃないのかな?戦いの神って……。
ホッパーズは敵でいいよ。 ←なげやり


天道もそのライバルたちとの戦いの中で少しずつ変わっていく、というふうにすれば、「人は変われる」という天道の最終回の浮き気味のセリフにも十分説得力・意味があると思うのだ。
もともと最終回に向けて、初めから想定されていたセリフだったのではないか?
そう考えるとゼクター強奪虫たかり棒のパーフェクトゼクターだって、まるで違う意味合いのアイテムになる。もともとはライダーたちと天道の信頼の証明になる武器だったのではないだろうか。「カブト、俺のゼクターを貸してやる!勝てなかったら許さねえぞ!」みたいな。


少年マンガ的な展開だけど、男の子向け番組だし個人的にはこっちのほうが面白く観られたと思う。
なんにせよ米村脚本は根本的なとこで理屈が先に立っちゃうところが根本的に向いてなかったような気がするんだよなあ*4
もっとバカになれ!そんなかんじ。
俺視点で言うと、やっぱりシナリオ(アイデア)よりもキャラクターなんだよな。



以下妄想&補足。
・天道 → 天の道を往く男
一見完全な戦士。その心は誰にも明かされないが、実は両親の仇を討ち、妹を守ることが戦う目的だった。
しかしワームやライバルたちとの戦いの中、もっと大きなもののために戦うことの重要さに気づき、それが本当の天の道だと悟る。


・矢車 → 協調・組織
天道が個の強さを重視するのに対し、パーフェクトハーモニーをもっとも重視する男。
協調する者に対しては寛容だが、それについて来れない者に対しては厳しい。
カブトとの戦いの中、実は協調よりも自分の欲望を優先することに惹かれている自分に気づき、ワーム陣営へと堕ちる。


・影山 → 従順
天道が自分の意志を尊重して行動するのに対し、ZECTの走狗としてどんな不条理な命令にも従う若者。天道の生きかたに触れているうち、自分がかつて持っていた理想と現実の間で苦しむようになる。
実は母親が重病で、その入院費を払うためにもZECTを辞めることができない。家族のために戦うという点で共感した天道と和解する。


・風間 → 自由
天道が両親を殺された過去に拘り行動するのに対し、刹那的な快楽を求める男。
天道と憎み合う関係ではないが、なんとなくウマが合わない。
女性を求めてしまうのは、風間が両親に捨てられた子供であったという過去を持つからである。


・神代 → 悪の俺様キャラ
天道と同レベルのスペックを持つが、他人を顧みない男。最強のワームハンター。
ひよりがワームであることを知り執拗に命を狙う。しかし天道にとってのひよりが、自分にとっての姉と同じだと知り、サソードゼクターを天道に託したあと多数のワームを道連れに壮烈な死を遂げる。


・加賀美 → 仮面ライダーになろうとする男
自分がなろうとする道を先に行く天道を追うZECTの新人。視聴者代表にして狂言回し。全てのライダーは共闘できるという思い込みと現実のギャップに苦しむ苦労人。
天道を追い、戦い続ける中で自分の道を見つける。


ワーム側はレクイエム御前・マコトくん・乃木・生簀で四天王でも。十分いけそうじゃないの。
ワーム穏健派として立川・田所。ネイティブの設定は(どうせ裏切るんだから)イラネっす。

*1:「成長する役」をきちんと見せたからザビーに変身した回は評価が高いのだ

*2:ついでに書くと、白倉Pには龍騎再び、という思惑もあったのではないか。W主人公+ライバルのメインストーリーに、脚本家二人体制。契約モンスター=ゼクターはあんまり関係ないかな。13人倒せばゴールというルールが明示されていたせいで、途中どんなにシナリオが変わろうが型がつくのがポイント

*3:出オチ芸人化した剣はもったいなさ過ぎ。「おぼっちゃま」要素は悪者になりきらないようチャームポイントのつもりで着けられた属性ではないのか?ボケキャラ化は龍騎で言えば「来週の浅倉はどんなゲテモノを食べるんだろう?」であり、本題にはなりえるはずもない

*4:劇場版で、相手のパーゼクを奪い取って勝つとことか、ライバルのダークカブトには結局パーゼクなしで勝ててないとことか